うだるような暑さが過ぎ、クーラーを付けなくても快適に感じられるようになった初秋の朝。
2人分の朝食の準備をしながら、
石川ゆり子(62)はふと思う。
「主婦には定年退職がない」
今年結婚30周年を迎える夫は、65歳まで勤め上げた会社を先日退職した。
テレビを見たり、趣味のゴルフに出かけたり、新しい生活をそれなりに満喫しているようだ。
私は…というとむしろ、1人で気ままに食べていた昼食は2人分になり、以前より部屋も散らかり、やる事は確実に増えた。2人の時間が増えたことに嬉しさは感じつつも、少しだけモヤモヤとした日々を過ごしている。
「久しぶりに旅行に行かない?
結婚30周年の記念に」
気晴らしに夫に提案してみたところ、
予想外の快諾。
しかも、夫の希望は「キミの行きたいところ」。ということで、行き先は能登半島の奥能登に位置する「輪島温泉」へ決めた。以前TVで見た、何枚もの田んぼが重なった「白米千枚田」と、巨岩に開いた大きな穴に差し込む「奇跡の夕陽」の絶景が忘れられず、ずっと頭の片隅にあったのだ。
夫婦ふたり、「能登の里山里海」の美しい風景を目指して、いざ出発。
目次
輪島へのドライブ旅スタート!
窓を開けて能登の風を浴びる
上野駅から北陸新幹線で約2時間50分、金沢駅に到着。ここから輪島温泉まではレンタカーで向かいます。
予定通り朝一番の新幹線に乗車し、9時に輪島へ向けてドライブスタート。
ドライブルートは、「のと里山海道」を北へ約50㎞、「七尾輪島線」を能登半島の先端へ向かって約20㎞、2時間弱の道のり。
少し窓を開けると、
心地いい風が顔にあたります。
夏は高温多湿で、冬は関東とは比べものにならないくらい厳しい北陸。
天候が安定し涼風が吹き始める初秋は、旅のベストタイミングだと感じました。
車窓から見えた「袖ヶ浜海岸」に
秋の訪れを感じる
今回の旅の目的は、「白米千枚田(しろよめせんまいだ)」を中心に「能登の里山里海」の風景を存分に堪能すること。そのため、行程の1番目に「白米千枚田」を組み込むことにしました。
年齢も年齢なので、急に体調を壊さないとも限りません。
ましてや、万がいち天気が崩れたりしたら絶対に後悔するだろうと考えたからです。
最初に見る絶景は「白米千枚田」と決めていたものの、道中の車窓から見えた「袖ヶ浜海岸」の景色には思わず声を上げてしまいました。青々とした夏の余韻を仄かに残しつつも、穏やかな波と風、ところどころ赤く染まりだした木々は、まるで秋の訪れを告げているようです。
【袖ヶ浜海岸】
住所 | 石川県輪島市鳳至町袖ヶ浜 |
電話番号 | 0768-23-1146(輪島市観光課) |
アクセス | 【電車】北陸本線「金沢駅」東口より輪島方面行特急バスに乗車、「輪島塗会館」下車、徒歩約20分/【車】北陸自動車道「金沢森本IC」より約105分 |
URL | https://www.hot-ishikawa.jp/spot/5710 |
旅の大本命
「白米千枚田」の絶景に息を呑む
この旅の大本命「白米千枚田」に向けて、私たちは満を持して「道の駅 千枚田ポケットパーク」を目指しました。到着するとお昼を少し過ぎてしまっていたため、道の駅に併設されているレストハウスで軽食をとってから絶景を拝むことに。
いざ、絶景ポイントに立つと、私たちはあっと息を呑みました。
豊かな田園と能登の海が織りなす景色を前に、思わず時間を忘れて立ち尽くすほど。
海へと広がる田んぼの数は、全部で1004枚。一つひとつは小さくて、耕運機も入らないほど狭いため、昔ながらの手作業で栽培を行っているとのことです。
私は、込み上げてくる感動とともに少々の後悔と幸福感を感じました。
それは、なぜもっと早くこの景色を見なかったのだろうという悔しさ。
そして、愛する人と一緒にこの瞬間を共有できたという幸せと安堵。
潮風と波の音を感じながら、この棚田を開拓した先人たちや、今もなお伝統を残し、景観を守ろうとする人々の努力に思いをはせながら、周辺を歩くことにしました。結婚して30年、今まで色々なことがありましたが、この小1時間の散策は一生忘れられないほどに、強く心に残っています。
【白米千枚田】
住所 | 石川県輪島市白米町 |
電話番号 | 0768-23-1146(輪島市観光課) |
営業時間 | 通年 |
アクセス | 【電車】北陸本線「金沢駅」より車で約110分/【車】北陸自動車道「金沢西IC」より約110分 |
URL | https://www.hot-ishikawa.jp/spot/5573 |
春と秋に見られる!
「窓岩」に差し込む“奇跡の夕陽”
初秋、能登の日の入り時刻はおよそ18時半。
余裕を持って18時までに「曽々木(そそぎ)海岸」に到着するように移動します。
春と秋だけ見ることができるといわれている、「窓岩(まどいわ)」の穴に差し込む「奇跡の夕陽」。調べてみると、これを見られたらとても幸運だというくらいの確率らしく、なかでも10~11月が高確率なのだとか。
周辺には、「垂水の滝」「接吻トンネル」「千体地蔵」など、観光スポットが点在しているので、少し散策しながら夕陽を待つことに。冬の荒波が削りだしたという、直径2mほどの穴があいた巨岩「窓岩」は、まさに圧巻の一言に尽きます。
「窓岩ポケットパーク」に戻ると、あたりは薄く陰り、かすかにオレンジ色が広がっていきます。
角度、時間、時期のいずれかが合わなかったのでしょう。写真のような「奇跡の夕陽」とはいきませんでしたが、荒波が削り出した無骨な巨岩の奥に夕陽が沈んでいく様は、これまで見た夕陽の中で一番キレイといっても過言ではありません。
私たちは、「窓岩」をあとにして輪島温泉の宿に向かいました。
地元の新鮮食材、七尾湾に面した露天風呂を満喫して、1日目は終了を迎えます。
【曽々木海岸】
住所 | 石川県輪島市町野町曽々木 |
電話番号 | 0768-32-0408(曽々木観光協会) |
営業時間 | 通年 |
アクセス | 【電車】北陸本線「金沢駅」より車で約115分/【車】北陸自動車道「金沢森本IC」より約115分 |
URL | https://www.hot-ishikawa.jp/spot/5708# |
日本三大朝市「輪島朝市」で、輪島の歴史と食に触れる
起床は朝5時。お風呂と食事を早めに済ませて、8時にチェックアウト。
夫はもっとゆっくりしたかったようですが、
能登に来たならどうしても「輪島朝市」は外せません。
調べてみると、「輪島朝市」では昔からの商いの風習が残っていて、値札が付いてない商品は直接自分で値段交渉ができるとのこと。初めての体験に、少しドキドキしながら市場を目指します。
「朝市通り」に着くと、地元の方らしき人々や観光客が入り混じり、大変にぎわっていました。
売り手のほとんどが地元のおばちゃんやおばあちゃんで、「買うてくだぁー」という元気な呼び声があちらこちらから聞こえてきます。
値札が付いている店もありますが、
調べてみた通り全く値札が付いていない露店もありました。
勇気を出して、声をかけてみます。
「これカレイ?」
「どうやって食べるのが美味しい?」
おばあちゃんはニコニコと優しい口調で、おすすめのレシピまで教えてくれます。
おばあちゃんの人柄にふれ、私は大満足で買い物を終えました。
【輪島朝市】
住所 | 石川県輪島市河井町朝市通り |
電話番号 | 0768-22-7653(午前中のみ) |
営業時間 | 8:00~12:00 |
定休日 | 第2・4水曜、1/1〜1/3(臨時営業の場合あり) |
アクセス | 【電車】北陸本線「金沢駅」より車で約100分/【車】北陸自動車道「金沢森本IC」より約90分 |
URL | https://www.hot-ishikawa.jp/spot/6814/ |
大迫力!まさに軍艦が向かってくるような「軍艦島」
最後に、夫の唯一のリクエストに応えて、軍艦島と呼ばれている「見附島(みつけじま)」へ。
石川県の能登半島の先端部分、珠洲市の鵜飼海岸の沖合に浮かぶ「見附島」。
別名「軍艦島」とも呼ばれ、高さ28m、周囲400m(全長160m、幅50m)もあるとか。
海面からそびえ立つその姿は、軍艦がこちらに向かってくるかのよう。そして、引き潮の時間帯は島の近くまで歩いていくことができます。海を渡って歩くなんてスリリングでロマンチック。気恥ずかしそうに差し出しされた夫の手を握りつつ、少しだけワクワクしながら足を進めます。
踏み石を渡り到着すると、その圧倒的な島の大きさと形に衝撃を受けます。
気が付くと、周りは若いカップルや夫婦でいっぱい。気まずさを隠すように、再び夫の手を取って戻りました。進んできたときよりも少しだけ距離が近づいていることを感じながら。
無事に行程を終え、東京に向かう新幹線の中では、早速次の能登旅行のことを話し合っていました。私はまた秋に訪れて、窓岩の「奇跡の夕陽」を絶対にリベンジしたいと夫に宣言します。
夫は、今回見た絶景を孫にも見せたいから、孫たちの学校に合わせて冬休みがいいかな…とポツリ。
夫が私以上に能登を好きになってくれたようで、それが私にとって一番のお土産となりました。
【見附島】
住所 | 石川県珠洲市宝立町鵜飼 |
電話番号 | 0768-82-7776(珠洲市観光交流課) |
アクセス | 【電車】北陸本線「金沢駅」より車で約120分/【車】のと里山海道「のと里山空港IC」より約40分 |
URL | https://www.hot-ishikawa.jp/spot/6554 |