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“文学の街”、城崎発の出版レーベル「本と温泉」

“文学の街”、城崎発の出版レーベル「本と温泉」

「城崎といえばカニ」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、志賀直哉の短編小説『城の崎にて』の舞台としても知られ、名だたる文豪たちが滞在し執筆活動に勤しんだ“文学の街”でもあります。

そんな城崎温泉に「城崎でしか買えない本」があるって知ってますか? 城崎発の出版レーベル「本と温泉」の活動と“これからの文学の街”をつくる取り組みを取材しました。

城崎でしか買えない本、「本と温泉」とは?

「本と温泉」は城崎でしか買えない本を出版するレーベルです。2013年の志賀直哉来湯100周年をきっかけに、旅館を経営する45歳以下の若旦那衆「城崎温泉旅館経営研究会」が立ち上げました。

2013年にスタートし、現在まで3作品を出版。温泉街の旅館やお土産屋さん、外湯など、城崎限定発売にもかかわらず、これまでの累計発行部数は3万5000部にのぼります。

こちらが第1弾、『城の崎にて』にその注釈『注釈・城の崎にて』をつけた2冊組。浴衣の袖に入れて持ち歩ける小さなサイズになっています。

2014年に発売された第2弾は『プリンセス・トヨトミ』『鹿男あをによし』などで知られる万城目学書き下ろしの短編小説。温泉に浸かりながら読めるよう、耐水性の高い紙を使用しタオル地のカバーがかけられています。

第3弾は2016年発売の『城崎へかえる』。『告白』などで知られる湊かなえ書き下ろしの短編小説です。装丁はカニの殻をイメージした特殊加工が施されています。

もう一度「文学の街」として城崎を盛り上げたい

取材に答えてくれたのは「本と温泉」理事の片岡大介さん。志賀直哉が生前何度も通い、『城の崎にて』を執筆した宿「三木屋」の10代目主人でもあります。

まず伺ったのが、「本と温泉」の大きな特徴でもある“城崎でしか買えない”というコンセプトについて。なぜ城崎限定で販売することにしたのでしょうか。

「城崎において文学というのは“強力な魅力”という認識を街全体で持っていましたが、どう扱ったらいいか分からずほったらかしの状況が続いていました。

そんな時、志賀直哉来湯100周年を迎えることになり、この機会を活かして自分たち若手の代で城崎をもう一度文学の街として盛り上げたいと思ったんです。城崎温泉を知らなくても、志賀直哉の知名度にあやかって城崎を知ってもらうきっかけをつくりたかった。それも1回なにかをやって終わり、ではなく、継続していくものにしたいと思っていました。

その想いが繋がり、さまざまな方との出会いや協力を経て現在の形になりました」(片岡さん)

プロジェクトに賛同した人気作家が執筆

「本と温泉」で驚くのが万城目学さん、湊かなえさんという豪華なラインナップです。お2人とも出版社からのオファーが絶えない人気作家。「僕らも最初はこんなすごいことになるなんて思っていませんでした」と片岡さん。

「第1弾制作中に『現代の作家さんに城崎に来て小説を書いてもらおう』という案が出ました。どういう人がいいかな?となった時に万城目さんの名前が挙がりました。

万城目さんは関西を舞台にした作品を書いているけど、運よく兵庫はまだなかったんです。あとは雑誌のインタビューで影響を受けた作品として志賀直哉の短編小説を挙げられていて。ダメ元で打診したらOKをいただいてびっくりしました。

『本が売れなくなっている時代に光が見えてくる気がする』『ネットで本が買える時代に、わざわざ城崎に来ないと買えないという売り方をするこの試みを応援したい』ということで引き受けてくださったんです。お金を儲ける目的だったら、何部売れるか分からないこんな話は受けてくれなかったと思います」(片岡さん)

「湊さんは万城目さんからの紹介でした。万城目さんが湊さんと別の仕事で会ったときに『城崎裁判』を買ったよ、と言われたそうです。購入した経緯を尋ねると、毎年城崎にカニを食べに行っていて見つけたと。

万城目さんが『本と温泉』の話をもらってから初めて城崎を訪れたことを伝えたら『絶対私の方が書く資格がある』とおっしゃっていたそうです(笑)。

そんなお話を聞いていたので、次は湊さんにお願いしてみようとお会いしたんです。そしたら『楽しいお話に誘っていただいてありがとうございます』と、その場で快諾していただきました」(片岡さん)

最新作はtupera tuperaが手掛ける絵本!

第4弾は『かおノート』などの絵本が人気の亀山達矢さんと中川敦子さんによるユニット・tupera tupera(ツペラツペラ)が手掛けることが発表されています。文学作品が続いてきましたが、今回はなぜ絵本になったのでしょうか。

「もともと『本と温泉』という名称を考える時に、『文学と温泉』という案もあったんです。でも、文学だけでなくもっと範囲を広くとらえようという想いから最終的に「本」になった経緯がありました。なので、そろそろ幅を広げてみようかなということで、さまざまな案の中から絵本に決まったんです。

僕を含め小さい子を持つメンバーが多くて、tupera tuperaさんの『かおノート』とかは必ず知っているしファンでもある。それでお願いすることになりました」(片岡さん)

第4弾の内容について聞くと「ぜひtupera tuperaさんに聞いてみてください」とのこと。ということで、最新情報をtupera tuperaの亀山さんにお伺いしました。

気になる最新作の内容と発売時期は?

photo ryumon kagioka

「本と温泉」のことは以前から知っていて、素敵な取り組みだなと思っていました。僕らもよく変わった本づくりをしていて、製本のこだわりなど共感する部分が多かったのでうれしかったです。この流れを大事にして、みんながびっくりするような造本にしようと計画しています」と亀山さん。

気になる内容は決まっているのでしょうか?

「第4弾は2冊出します。ひとつは“城崎の街と外湯”をテーマにしたもので、城崎での思い出や体験をそのまま持って帰ってもらえるような作品です。

もうひとつは“湯気と泡のかわいいのが出てくる話”で、現地で子どもたちが買って楽しめるような内容です。あまり詳しく言うと楽しみがなくなってしまうのでここまでで(笑)。2年くらい構想を練り練りしました。

絵本は子どものためのものではなく、0歳から100歳までが使えるコミュニケーションツールだと思っているので、幅広い年齢の方に楽しんでもらえたらうれしいです」(亀山さん)

2019年中の発売を目指して絶賛制作中とのこと。発売が待ち遠しいですね!

“城崎で生きている文学”を感じられる「城崎文芸館」

「本と温泉」の取り組みを通じて「文学の街 城崎」に興味を持ったらぜひ訪れてほしいのが「城崎文芸館」です。

城崎の文学の歴史だけでなく“生きている文学”を紹介する施設として、2016年秋に展示内容を大幅にリニューアルしました。1階は「企画展示室」、2階は「常設展示室」となっています。

「本と温泉」にまつわる企画展やイベントも開催されていて、6月1日からは『「本と温泉」のつくり方。』展が始まりました(2020年5月31日まで)。「本と温泉」とまちづくりの裏側を詳しく知れるだけでなく、城崎文学を創作する参加型の展示を楽しめます。

2階の「常設展示室1」では志賀直哉に関する書物などを見ることができます。

『城の崎にて』の一文を立体として展示したり、

城崎温泉滞在中に特別にお願いしてつくらせたという朝食を再現していたり、志賀直哉について愉しく理解を深められます。

「常設展示室2」では城崎温泉にゆかりのある文人や詩人を紹介しています。

1階の「SHOP&SALON KINOBUN」では城崎ゆかりの作家の著書やオリジナル商品を販売。もちろん「本と温泉」も取り扱っていますよ。取り組みが始まって5年。「こんなのあるんだ」から「あった!これこれ!」と、「本と温泉」を目当てに訪れる観光客が目立つようになったそう。お土産としても人気です。

「城崎は気持ちのいい方ばかり」とtupera tuperaの亀山さんも言うように、街だけでなくそこで暮らす人たちも城崎の大きな魅力。文学好きな方はもちろんそうでない方も、城崎温泉に訪れた際はぜひ「本と温泉」を手に入れてください。美しい街並みや会話を交わした街の人……本を開くたび、城崎での思い出が蘇ってきますよ。

【取材協力】

NPO法人「本と温泉」 http://books-onsen.com/

城崎温泉「三木屋」 http://www.kinosaki-mikiya.jp/

tupera tupera http://www.tupera-tupera.com/

豊岡市立「城崎文芸館」 http://kinobun.jp/

【お知らせ】
「本と温泉」第4弾を手掛けるtupera tuperaの結成15年を記念した展覧会「ぼくとわたしとみんなのtupera tupera 絵本の世界展」が全国各地を巡ります!今後の予定はこちら。全国のみなさん、お楽しみに。
・2019年6月13(木)~7月28日(日)/山形・天童市美術館
・2019年8月6日(火)~9月8日(日)/福岡・久留米市美術館
・2019年11月予定/京都・安井金比羅宮(金比羅絵馬館)
・2020年1月予定/高知・高知県立美術館

Photo/井垣真紀(イガキフォトスタジオ)

「街の魅力がすべて詰まった8本の記事で作った城崎特集」はこちら

YUKOTABI 編集部
ゆこゆこネットが運営する温泉旅行メディア「YUKOTABI」の編集部です。 家族や友人との旅行がもっと楽しくなる情報や、おすすめの温泉など毎日発信しています!

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